こだわりの食事、おしゃれなスカート、恋の話――。戦時の日常にまつわるエピソードをソーシャルメディアで共有する試みをNHKが始めた。プロジェクト名は「#(ハッシュタグ)あちこちのすずさん」。人気アニメ映画にこと寄せ、若者の戦争への関心を掘り起こす狙いだ。10日夜には特集番組が生放送される。
「すずさん」とは、映画「この世界の片隅に」(片渕須直監督、2016年)のヒロインの名前だ。広島・呉に嫁いだ主人公すずと家族の、つましいながらも喜怒哀楽にあふれた戦時の暮らしを活写している。
「すずさんのような人が、全国にいたはずだ」。NHKの春日真人チーフ・プロデューサー(CP)が注目したのが戦時の「暮らし」という側面だ。若い世代との間に戦争に対する知識差や温度差を感じていた春日CP。NHKの戦争番組は、骨太なドキュメンタリーが看板だが、「苦難を伝えるのに注力するあまり、戦時の日常はこれまで伝えきれていなかったのではないか。ただ、そうした日常生活にこそ、当時を身近なものに感じさせる力がある」。
若年層を巻き込むため、ツイッターを使う参加型の企画を考案した。10~30代に呼びかけ、祖父母世代から聞き取った戦時の四方山(よもやま)話を、「#あちこちのすずさん」というタグを付けて投稿してもらうという構想だ。戦争体験は、短文では伝えきれるものではないとしつつ、「今回はとにかく敷居を下げたかった」とも。「ただしこの企画は、英語学習で言うとあくまで『基礎英語』。これを機に知識を深めてもらいたい」
タグ付きの投稿は4~7月で2千件以上にのぼったという。10日夜9時から総合テレビで生放送される番組「#あちこちのすずさん~教えてください あなたの戦争~」では、投稿を元に片渕監督が手がけたアニメも放送する。人気アイドルグループ「Hey! Say! JUMP」の八乙女光さんと伊野尾慧さん、俳優の広瀬すずさんらが出演する。(真野啓太)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル